お正月に、
『NHKの朝の情報番組で、FAROの紹介を観た母親から、
伊豆高原に旅行に行っているなら、ぜひついでに
西伊豆まで行って、作ってもらいなさいって言われたので、、、』
と、お越しになられた若いご夫婦。
テレビで紹介された、ガラスの赤ちゃんの手形と足形を、
それぞれのご両親のものと3つ頼んでいかれました。
その後無事納品したのですが、
『手形と足形が、上に付きすぎていて、バランスが悪い』
とクレームを受けました。
わかりました。
拝見させていただきたいので、着払いで
送り返していただけますか?
とお返事したのですが、なかなか返品されなかったので、
こちらからお電話したところ、
『大震災の時の揺れで、倒れて割れてしまい、
どうしようかと悩んでいたところ。』
とおっしゃいました。
千葉の方でしたが、震度4位だったでしょうか?
その後、送られた手形と足形を見て、おっしゃるとおり
バランスが悪かったなあと反省しました。
普段、新生児か生後半年位の赤ちゃんを対象に
しているのですが、この赤ちゃんは9ヶ月でした。
しかも、足形となれば更に大きく重かったのです。
下のスペースは、赤ちゃんのお名前などを彫る
スペースなので、当然足形は上につけることになります。
いつもより大きく重いものを、いつもどおりに
フォトプレートにつけたら、バランスは当然悪かったはずでした。
それを気付かずに送ったのは、私たちの慣れと、
おごりだったと、今思います。
テレビで紹介していたから、、、とお越しいただいたことに
浮かれていたのかもしれません。
それと、冬は特に収入源がなくなるので、お仕事は
喉から手が出るほど欲しかったのです。
我ながら、情けない。
手形の方も、手形の位置に合わせて、彫刻を上に
彫りすぎていたので、やむなく新品のフレームに付け替えました。
しかし、足形は、すでにスペースいっぱいで、
どうにもずらすことができません。
今後の余震を考えると、名前スペースと足形の位置を
逆転させて作っても、やはり揺れで倒れそうです。
お客様にご相談したところ、
『写真立てにはこだわらないから、
娘に似合う綺麗なものを制作して欲しい。』
とおっしゃいました。
ふと、“壁掛け”にするというアイデアが浮かんだので、
ご提案したところ、『あなたにお任せします。』と
おっしゃいました。
さて、思いつきで“壁掛け”と言ったけど、
どうすべきかずっと悩んでいました。
大きなプレートを吹いて、後で切断して、
足形を付けることに決めました。
プレートは、大きく吹いたつもりでしたが、
四隅を切断すると、思いの外小さくて、
足形がやけに大きく感じました。
これでは、何だかちゃちな感じです。
窯の火はもう消えていて、作り直しはできません。
また悩んでしまいました。
悩み続けていると、周りに綺麗な縁取りを施す
アイデアが閃きました。
だけど、どうやって?
ステンドグラス技法で、小さなピースを繋いでいくか?
すでに足形だけでも、かなりの重量なのに、
更に周りにガラスとはんだの重さをかけるのは、
不安でした。
うーん、、、
目の前に、10年以上前に引いた“レース棒”がありました。
これだ!
プレートの四方のサイズに合わせて切り、
電気炉で7時間かけて溶かしました。
のっぺり溶け切ってしまわないように、逐一チェックして、
ほどよいところで温度を下げていきました。
割れて出てこないか、恐る恐る開けたら、、、
可愛いプレートが出てきました。

窯入れの時、割れないで、うまく焼きあがりますようにと
2礼2拍手1礼したのです。
ホッとしました。
次なる作業は更に強度を考えて、
周りをはんだで囲む予定でした。
カパーテープを綺麗に貼り、フラックスを塗って
いよいよハンダを付けた瞬間、、、
『パシッ!!』
と、レース棒だけが折れるように割れました!!!
レース棒の存在感を残すために、焼きを甘くしておいたので、
本体のプレートとしっかり焼きついていませんでした。
そこへ、我慢を超える熱が加わったので、割れたのです。
痛恨の極み、、、
振り出しに戻った気がしました。
どうしようと悩んでいたのですが、もう一度割れたものも
一緒に焼き直すことに決めました。
うまく割れが修正できるように焼けるか、それは賭けの
ようなものでしたが、一か八か、焼いてみました。
今度は、しっかりキープ時間を取りました。
割れないように、1日置いて、翌々日に窯を開けました。
見事!元通りに一体化されて、出てきました。
偶然、レース棒とプレートの隙間が四隅にできていたので
そこへ、革ひもを通して、壁に掛けるようにしました。

足型を付けて、お名前も彫刻して、、、

恐る恐る、千葉へお送りしました。
どうしたかな~
気に入ってくださったかな~~
と、思っていたら、可愛い女の子の写真のついた
はがきが届きました。

届いた足型を見て、ご主人と大喜びしてくださったこと。
割れてしまって、とっても悲しかったけど、
こんなに素敵になって戻ってきて、本当に嬉しいと
書かれていました。
最後に、
『五木田さんにお願いして良かった』
と、書かれていました。
私の仕事は、この一言を聞くためにあるんだな~と
胸が熱くなりました。
私は芸術家ではありません。
しかし、工芸家でもありません。
いわゆる『デザイナー』の部類に入るんじゃないかと、
最近勝手に思います。
誰かに訴えたい『何か』は持ち合わせていないし、
正統な技術を継承しているわけでもありません。
だけど、お客様の『こんなものが欲しい』というモヤモヤした
“何か”を、形にして差し上げるのが、私の仕事だと思います。
どんなに自分で気にいった作品でも、それを喜んで
見たり、買ってくださる方がいなければ、私の仕事は
意味がないのです。
だから、最近は“自称 デザイナー”を、
心の中だけで思っています。(笑)
本当に美大出ている方には、失礼ですね、、、?
これからも、誰かに必要とされるものを、誠実に
作っていきたいな~って、心から思ったお仕事でした。
今回、作り直しにかかった費用は、頂きませんでした。
だけど、心の中は感謝でいっぱいです。